第2章

絵里視点

和也とのあの壮絶な喧嘩の後、私は豪邸を出て、古びたアパートに引っ越した。

翌朝、腹部に焼けつくような痛みで目が覚めた。中古のソファの上で体を丸めると、汗で服がぐっしょりと濡れていた。癌が進行しているのだ。痛みの波が押し寄せるたびに、残された時間は少ないという現実を突きつけられる。

『弁護士が必要だ。でも、お金なんてどこに?』

震える手でスマートフォンを手に取り、法律事務所に電話をかけ始めた。

「離婚訴訟ですか? 当事務所の着手金は五万ドルです」

「申し訳ありませんが、無料法律相談プログラムは扱っておりません」

「公的な法律サービスを試すこともできますが、三ヶ月待ちになりますね……」

三ヶ月? 手からスマートフォンが滑り落ちそうになった。私には三ヶ月も残されていないかもしれないのに。

和也は私のクレジットカードをすべて凍結し、銀行口座も制限していた。宝飾品の売却手続きもまだ終わっておらず、まともな弁護士を雇う費用さえ捻出できない。

『これが和也のやり方なんだ。法廷で私を無防備にして、叩き潰されるのを見るつもりなんだ』


法律事務所のビル

この豪華なビルに立つ私は、まるで宮殿に迷い込んだ物乞いのような気分だった。

エレベーターのドアが閉まる。十八階、小さな法律扶助事務所のボタンを押した。上昇する感覚で胃がむかむかする。あるいは、また癌の痛みがぶり返しただけかもしれない。

チーン――

三十階でドアが開いた。

和也が入ってきた。

時間が完全に止まったかのようだった。彼は高価なオーダーメイドのスーツを身にまとい、同じように身なりのいい弁護士を三人引き連れていた。私を見ると、その見慣れた顔に一瞬驚きの表情が浮かび、すぐに嫌悪のそれに変わった。

「ここで何してる?」

「弁護士を探してるの。離婚手続きの準備よ」

和也は私を頭のてっぺんから爪先まで見下ろし、口の端を歪めて嘲るような笑みを浮かべた。「そんな格好で? それで俺を訴えるつもりか?」

筆頭弁護士の大輔が咳払いをした。「五条さん、彼女と関わるのはおやめください」

「何を恐れることがある?」和也は一歩近づいた。「俺が年収いくらか知ってるか? 俺の弁護団が時給いくら取るか知ってるか?」

『一時間75万円。調べたことがある』

エレベーターは上昇を続け、その機械的な駆動音が、私の内なる絶望のように耳の中で増幅していく。

「それに比べてお前は?」彼は声を低くしたが、その一言一言が釘のように突き刺さった。「安物の服を着て、ネズミの巣みたいなアパートに住んで、まともな弁護士も雇えない。それで、俺に勝てると思ってるのか?」

拳を握りしめると、爪が手のひらに食い込んだ。『泣くな。彼の前でだけは絶対に泣いちゃダメだ』

「後悔するわよ、あんた」

「後悔?」彼はエレベーターの中に嘲笑を響かせた。「後悔してるさ。お前と十年も人生を無駄にしたことだよ」

エレベーターは四十二階に到着した。和也が降りていく。

ドアが閉まる直前、和也は哀れな生き物を見るような目で振り返った。

「現実を見ろ、絵里。お前はもう負けてるんだよ」

ドアが閉まる。十八階へと一人で下りていく間、押し潰されそうな屈辱で息が苦しかった。足の力が抜け、エレベーターの壁にしがみついてなんとか立っているのがやっとだった。

『彼の言う通りだ。私はもう負けている。始まる前から、もう』


アパートに戻ると、スマートフォンが鳴った。梨沙の名前が表示され、心に一筋の温かさが灯る。まだ誰かが気にかけてくれているのかもしれない。

「ねえ、大丈夫?」梨沙の声は心配そうだった。「階下のスターバックスにいるの。話がしたい。友達の支えが必要でしょ」

「わかった。すぐ行く」

痛む体を引きずって階下へ向かう。雨町の秋雨はいつも骨身に沁みるほど冷たく、路面は私の気分みたいに、ぬるぬると濡れていた。

スターバックスの窓越しに、隅のテーブルに座る梨沙の姿が見えた。だが、一人ではなかった。恵美と沙耶香も一緒で、三人は頭を寄せ合って、楽しそうにおしゃべりしている。

ドアを押そうとした、まさにその時。私の血の気が引くような会話が聞こえてきた。

「信じられない、絵里が梨乃のこと、本当に殴ったなんて!」恵美が興奮したように言った。

「和也がそれとなく言ってたのを聞いたわ」梨沙はがっかりしたように首を振った。「『別れを受け入れられずに極端な行動に出る人もいる』って。誰のことか分かるでしょ」

冷たいガラスのドアに手を押し当てると、体が震え始めた。

「正直、私、前から絵里って支配欲が強いと思ってた」沙耶香が静かに言ったが、その一言一句が私の耳に届いた。「去年覚えてる? 和也がフジロックフェスティバルに行きたがってたのに、『二人だけの時間がもっと必要』とか言って行かせなかったじゃない。束縛がひどいわよ」

「そうそう!」恵美が頷く。「和也、籠の中の鳥みたいだったって言ってた。今はやっと自由になれたのよ」

『私を慰めるために来たんじゃない。痛みを肴に噂話をするために集まっていたんだ』

私は外に立ち尽くし、かつての友人三人が私の人生を解剖しているのを見ていた。ガラスには憔悴しきった私の顔が映っている。目の下の深い隈、こけた頬。本当に狂った女みたいに見えた。

「梨乃のインスタグラム見た?」梨沙がスマートフォンを取り出した。「昨日の写真、完璧な彼女って感じ。若くて綺麗で、それに和也のキャリアをすごく応援してるし」

「和也にはもっといい人がいるべきよ」沙耶香が結論づけた。「絵里は精神的に問題のある三十路の終わった女。捨てられて当然だわ」

口を押さえた途端、涙が噴き出した。世界中から裏切られたような感覚が、津波のように私に襲いかかった。

突然、梨沙が顔を上げ、ガラス越しの私に気づいた。彼女の顔が真っ白になり、その目にはパニックと罪悪感がよぎった。彼女は飛び上がるように立ち上がると、ほとんど駆け寄るようにしてドアを押し開けた。

「絵里! 来てたの! 私たち、ちょうど……話してたのは……」

「私がどれだけ束縛がひどいか話してたの? それとも、私が捨てられたことをお祝いしてたの?」

「違うの、あなたのことを心配して……」梨沙の顔が赤くなり、しどろもどろに嘘を並べ立てた。

「私のことを心配?」私は涙を流しながら冷たく笑った。「あの泥棒猫に、私が何か『極端なこと』でもするんじゃないかって心配してたの?」

恵美と沙耶香は気まずそうに目を伏せ、私と視線を合わせようとしなかった。彼女たちの沈黙は、どんな非難よりも心を抉った。

「十年間の友情。結局、こういうものだったのね」。私は涙を拭った。「現実がどんなものか教えてくれて、ありがとう」

私は背を向けて歩き出した。後ろから梨沙が叫ぶ。「絵里、待って! 誤解よ!」

でも、私は振り返らなかった。この人たちに構う価値なんてない。

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